イタリア豆知識

東洋人は辛いよ
2021.03.30

♪ボロは着ぃ~てても 心はァ~錦ぃ~ん♪

突然ですが、水前寺清子のヒット曲もイタリアでは通用しません。 どんなに心意気のある素晴らしい人でも、ボロを着ていては誰からも相手にされないからです。
とにかく見てくれが第一のお国柄、他はよく知りませんが、ミラネーゼはどこに行くにも小奇麗な格好をしとります。近所へのお買い物にも、しっかりメイクしてハイヒールを履いて出かける主婦が殆どです。
特に我々東洋人は、市場といえども、頭の先から爪の先まで細心の注意を払って臨まなければなりません。
なぜならば、店員さんの態度があからさまに違うのです。 私に言わせると国民総人種差別主義のイタリア、EU圏外の人種を「extra comunitari」と呼び差別し、東洋人と言えばフィリピン人は住み込みのお手伝いさん(フィリピンは東南アジアか)、中国人は中華料理屋で働く不法滞在者と定義しているようです。日本人と知れば多少手綱は緩みますが、我々がイタリア人もフランス人もアルバニア人も区別がつかないように、彼等にとっては日本人も中国人も韓国人も、しいてはフィリピン人すらも見分がつかず、みんな同じ東洋人、つまり不法滞在の貧乏人なのです。
それでも身なりを整えていくと「mi dica bellissima ! (ベッピンさん、何にしましょ?)」とあちらから声をかけてくるし、時には代金の端数を切り捨ててくれたり、量をちょっと多めに入れてくれたりと至れり尽くせりのサービスを受けられます。ところが、自分でも「ちょっとど~ですか?」と思うような格好の時は、こないだはあんなに親切だったお兄さんにも平気でスルーされてしまうし、やっと順番が廻ってきても、それはそれは邪険に扱われます。周りの買い物客とて、目の前にいる陳腐な東洋人へのリスペクトなど有るはずもありません。

全く、市場でお金を払って屈辱的な思いをするなんて理不尽極まりない話しではありませんか!
しかし、そこは異国に仮住まいのマイノリティー、ボヤく暇があったら自分で策を講じるしかありません。
そこで私は、市場へはなるべく会社帰りに制服で出掛けることにしました。イタリアの空港には職員用の更衣室が無い為、皆自宅から制服で出勤します。あの真緑のジャケットは一目瞭然、気恥ずかしさは否めませんが、東洋人ではあるけれど、定職を持つ合法滞在者であることを言わずもがな証明できる恰好のアイテムなのです。制服はスーツ風なので一応エレガントではあるし、実際下手に気合いを入れた私服で臨むより数段扱いが良く、そのうえ会社から支給されるので元手はゼロ、一石二鳥です。

ここで、私の苦い経験をご紹介いたしましょう。
ある冬の日のバスでの出来事。チビの私には殆どの服が大きく、その日のコートの袖も私の両手をすっかり覆い隠していました。するとイタリア人のオバちゃんが、私の手を指さして
「perche ti nascondi le mani?! (あんた、なんで手を隠してるの!)」
と吐き捨てながらバスを降りて行ったのです。思いもしない言葉に何事かと唖然としてしまいましたが、どうやら私をスリと疑ったようです。
又、別の日にはこんなことも。八百屋の列に並んでいた時、私の前にいたババァが振り返って私に気付くや否や、自分の小汚いバッグをギュッと握りしめ、列に居た別の女性に「e’ meglio stare attenti (用心するに越したことは無いわね。)」とぬかしやがった!
こら、クソババァ! おまえのその雑巾みたいなボロバックから私が財布を盗むとでもいうか

ハァ~、ホント東洋人は辛いよ。
いわれなき屈辱を避ける為には、なりふり構わぬ手段も、涙なしでは語れない努力も必要なのです。
牛乳1本、パン1個買いに行くにも気合いを入れて、身だしなみは完璧に、心は強く、逞しく、気合いだぁ~!